【書評】『最後の医者は桜を見上げて君を想う。』あらすじ 感想 ネタバレ有

今回紹介する書籍

自ら死を選ぶという選択。

本作のテーマは「自ら死を選ぶ」という選択はあるのかということに尽きると思う。

本作には2人の対極的な立場の医者が登場する。

桐子修司
「死神」と呼ばれ、患者に「自ら死を選ぶ」ことも選択肢として与える。
福原雅和
一流の医療技術を持ち、患者の病気と最後までともに戦い続ける姿勢を貫く。

本作はそんな彼らがそれぞれの思いを持って患者と接し、そして、医療に向き合っていく医療ドラマである。

ある会社員の死

会社員・浜山雄吾はある日突然「白血病」を宣告される。

過酷な抗がん剤治療の結果、寛解にまで至るが、そこからさらに「骨髄移植」の決断を迫られる。

そんな時、浜山が漏らした

浜山
…ずっと生きていられるような気がしていたんだ。

この言葉にはっとさせられた。

僕自身、当たり前に生きている。明日白血病だと宣告されるなんて夢にも思っていない。しかし、こんな現実もあるのだ。そう思うと、怖くなった。

そして、畳み掛けるように浜山の不安は募るばかり。

浜山
「希望をちらつかされるのは辛いんだ 。努力や運次第で手に届くところに置かれたものを 、取り上げられる方が辛いんだ … … 」

これは骨髄移植後の生存率や再発率など、確率を並べ立てられた浜山が、その辛さに漏らした言葉。

浜山はついに「死神」桐子に面談を申し込む。

桐子
「浜山さん 。病気に勝つには 、死ぬのも一つの方法であるとは思いませんか ? 」

ここまでの浜山の苦しみと桐子のこの言葉で初めて僕の中の「自ら死を選択すること」の価値観が変わったように思う。

簡単に決断できることではもちろんないのだけれど。

桐子は言う。

桐子
「自ら死を受け入れることができた時 、人は死に勝利したと言えませんか 」

しかし、浜山が出した答えは「骨髄移植」だった。

桐子の話に納得したように見えていた浜山だったが、白血病と闘うことを決心したのである。

浜山
「自分の人生を取り戻したい 。だから自分で決めたい 」

妻の京子にはこう言っていたのだが、詳しくは話さない浜山。

その決断の真意が、奇しくも彼の最期の手紙として、妻に伝えられる。

その時、僕の涙腺は、崩壊していた。

手紙の内容
手紙の内容は、是非本書を手に取って、読んでいただきたい。

結果、浜山は自ら病気と闘うことを決め、そして亡くなってしまう。

しかし、

自ら決断すること。

それがなによりも大切なことだということを浜山は教えてくれた気がする。

ある大学生の死

主な登場人物

音山晴夫
七十字病院の神経科医。福原・桐子とは大学の同期。音山は福原と桐子ほど優秀でなく、このままでいいのかと悩んでいる。
川澄まりえ
東医大の1年生。合格して医者を目指せると喜んだ矢先、ALSと診断される。

ある日突然、足が思い通りに動かなくなる。

そんな違和感から受診するとALS(筋萎縮性側索硬化症)が発覚。

原因不明の神経病で、数年で徐々に手足の筋肉が衰え、自分では何もすることができなくなっていき、遂には呼吸器麻痺を起こし、死に至るという恐ろしい病気である。

まりえ
「何もできなくなるなんて 。死ぬ時って 、生まれてくる時と似てますね 」

音山は患者でもあり後輩でもある、まりえと関わることで何かを気付こうとしている。

自分が忘れてしまった何かを。

音山
「うまく言えないんだが 。僕は医者として … …君と向かい合うことで 、何かを教えてもらっている 。それは僕が 、いつの間にかなくしてしまったもので … …そして 、取り戻したいと思っているもので … … 」

とうとう延命措置の決断の時が来た。

音山
どんな手段でも使って生き残るべき 、生き残って治療法が見つかるのを待つべきと言う人もいた 。そうではなく 、どこまで生きるのかを主体的に決めて 、そこからの治療は拒否すべきだと言う人もいた 。

前者は福原、後者は桐子である。

その両極とも言える決断を音山は踏み切れずにいた。

しかし、まりえは決断した。

まりえ
「せんせい 。わたしは 、しのうとおもいます 」
まりえ
「わたしも 、たくさんまよいました 。たくさんかんがえました 。おとやませんせいは 、いっしょに 、まよってくれた 。いっしょに 、すごくつらくなって 、そしてまよって 、くるしんでくれた 」

延命措置は行わず、死を選択したのだ。

そして、とうとうその瞬間は訪れる。

そして、音山は気づかされる。

音山
俺が探し続けていたものは 、俺が医者になってやりたかったことは 、すぐそばにあったのだ 。それは 、迷うということ 。患者と一緒に迷い 、悩む 。

音山にしか救えない患者はいる。

それは、福原にも桐子にも救えない患者なのだ。

まりえはそのことを音山に教えてくれたのだ。

患者を救う方法とは
患者を救うのは福原のように最後まで患者を勇気付ける医者かもしれないし、桐子のように死という選択を与える医者かもしれない。そして、音山のように最後まで患者とともに悩み抜く医者なのかもしれない。

とある医者の死

音山は桐子にある提案をする。

『診療相談科』を作るということ。

患者の中には、福原のような医者に相談したい者もいる。桐子のような医者に相談したい者もいる。

そこで、『診療相談科』というシステムを作って、患者一人ひとりと向き合おうというのである。

そんな矢先、音山に下咽頭癌が見つかる。

大学の友人でもある福原必ず治してみせると、音山を勇気付ける。

一方で、「死神」桐子には、心の中に友人を失いたくないという思いが芽生え始める。

音山はたった1人で自分を育ててくれた、祖母に声を聞かせることができなくなって心配をかけてしまうことにためらいを感じ、なかなか手術に踏み出すことができないでいた。

そしてとうとう、癌の遠隔転移がはじまってしまう。

音山は「死神」桐子に、死に方についての相談をする。

音山
「桐子 。俺の我儘を 、聞いてくれ 。俺は婆ちゃんが疑わない程度に 、生きたい 。そして … …婆ちゃんが満足して逝ったら … … 」「死にたい 。できるだけ楽にね 」

その言葉を聞いた桐子は涙を流してしまう。

桐子
「君を死なせたくないという思いが 、どうしても消せないんだ 。こんな状態で 、死神として君の相談に乗るわけにはいかない 。そうだろう 」

ここで音山は桐子の本当の姿に気付く。

音山が気づいた桐子の本当の姿
「わかったよ 。わかった 。ずっと君のことを 、まるで感情がないような奴だと思っていたけれど … …冷徹な奴だと思っていたけれど 。人間も虫も 、同じものとして見ている奴だと思っていたけれど 。逆だったんだな 」「君は誰よりも 、人間を愛しているんだろう 、桐子 」人間が大切過ぎて 、軽く扱えないんだ 。人間が死ぬということを真剣に考えるし … …誰も思いつかないような選択肢ですら 、導き出してみせる 。そう 、君は死神なんかじゃなかったんだ」

そうして、桐子にある願いを申し出る。

それは、「祖母に電話で声を聞かせ続けられるように、治療していく」こと。

そのために、福原と桐子に協力してもらいたいということであった。

もちろんすでに転移しているため、医学的には無意味な手術であるが、それを承知の上で、最期まで祖母に声を聞かせることを願ったのである。

そして、大学の頃の友人たちが再び手を取り合うことを願ったのである。

それでも、なかなか手を取り合うことのできない福原と桐子。

桐子は音山の「声を出せるようにする手術」を執り行うことに。

執刀医として音山は福原を指名するが、「そんな命を削るだけの手術などできない。」と拒否されてしまう。

福原の中には、音山を完治させたいという思いが大きかったのだ。

そして、手術当日。

福原はどう決断したのか。

音山はどうなったのか。

気になる方は、是非本を手に取ってお読みいただきたい。

2人の医者
福原だけでは救えない患者がいる。桐子だけでは救えない患者がいる。音山はそんな2人の医者を繋ぎ合わせた患者であり、彼らの友人であった。

本書について

この本の評価
読みやすさ
(4.5)
面白さ
(5.0)
考えさせられる度
(5.0)
感動
(4.5)
キャラクター設定
(4.0)
総合評価
(4.5)

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